大高宏雄のべらんめえ映画道場


 

第1回

 

 第9回の日プロ大賞が決まってホッとしたけど、ベストテンを見るとなるほどなという作品がやっぱり並んでますね。塩田明彦監督と三池崇史監督が、それぞれ2本ずつ入っているのが特に注目。2人の作品の作られ方は、とりあえず対極にあると言っていいでしょうね。ベストワンに輝いた塩田監督の『どこまでもいこう』は、完全に彼自身の企画であり、どうしても手がけてみたかった作品。商業性が見える彼の『月光の囁き』にしても、監督の主導性が強く見えるね。
反対に三池監督の『DEAD OR ALIVE 犯罪者』にしろ、『日本黒社会 LEY LINES』にしろ、まさにジャンルもの。Vシネ系ともいわれるが、昔でいえば、娯楽映画プログラム・ピクチュアに近い作品群から生まれてきたものでしょう。徹底した商業性の枠から、出てきているわけだ。

 そうした、各々の違う場から、同じ監督の2本の作品がそれぞれ選ばれた。日本の映画監督は、おおむねこの2人の監督のそれぞれの位 置に収まっていくんじゃないかな。濃度は、もちろん個々によって違うけどね。そして、両者を股にかけて、独自の表現を定立しているのが、『ニンゲン合格』の黒沢清監督ということになる。詳しくは、ここでは説明しないけど。
中江裕司監督の『ナビィの恋』も、高い評価だったな。それは、今述べたような批評的枠組みの断定性を、あっさり超克したようなのびやかさが評価されたと言ってもいい。何か不自由な日本映画の構図(それは、私のような批評的断定性までも含んでいる)を解体させてくれたようなね。スコーンと、どこか抜けたような輝きがあるんだ。良かったよ、この作品が監督賞などもとって。

 ピンク映画の『OLの愛汁・ラブジュース』の堂々7位キープにはびっくり。日プロ大賞の“歴史”の中で、ここまで上位にピンク映画が食い込んだのは初めて。ピンク四天王の瀬々敬久監督の作品も、かつてここまで上位には入らなかった。ベストワンに選んだのが、2人いたんだからね。内容は、きわめてオーソドックスだよ。
 年下の男と関係をもつOLのドラマそのものがオーソドックスなんだが、二人の生活空間というのか生活心情というのか、これがいいんだね。田尻裕司という監督はね、この時代の一つの愛の形を、ピンク映画ならではの映像的触感で描いている。どこでもないどこか、誰でもない誰か。90年代最後の日本映画のラブストーリーなんじゃないの。授賞式(4月8日)で上映するから、ぜひ見て下さい。

 個人賞は、意外な人選という気もするけど、それぞれがベストに近い奮闘ぶりを見せていたことを考慮すれば、やっぱり妥当だったんでしょうね。特別賞の佐々木史朗さんは知らない人が多いから説明しておくと、元ATG社長だった人。アルゴピクチャーズにも参加していたプロデューサーで、独立系の映画製作では相当名を成している人です。単独プロデューサーとしての業績はもちろんのこと、一種のまとめ役的な役割も大きかったんだね。佐々木さん、『ナビィの恋』のプロデュースで、完全復活したわけです。これからも、日本映画界に活を入れていってもらいたい。そんな意味の特別賞ですね。(2月20日)

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