大高宏雄のべらんめえ映画道場


 

第2回

『シュリ』に軍配が上がった日韓映画戦


 

 日韓映画戦は、どうやら韓国の勝ちということになりそうだね。これは、日本映画『鉄道員/ぽっぽや』対韓国映画『シュリ』の興行的な対決のことで、『鉄道員/ぽっぽや』なら韓国で、『シュリ』なら日本で、どれだけ健闘したかという“映画戦”だったんだけど、『シュリ』の方に軍配が上がる可能性が強くなったわけだ。
まず『鉄道員/ぽっぽや』の方を見てみると、スタートは2月4日からで、ソウル10館を含む韓国40館で公開された。最初の3日間は、40館で9万4千人。この時点では他の映画を圧して、トップスタートを切ったんだね。

 しかしどうも、その後が伸び悩んだようだ。窓口である東映の国際部が数字を出さなくなってしまったので、実態はつかみかねるのだが、当初見込み100万人動員は間違いなく無理みたいだね。まあ広末涼子人気で、最初は話題になったらしいから、作品そのものへの関心度は意外や、薄かったと言えるのかもしれない。
反対に『シュリ』は、この3月末で日本国内100万人動員が実現する見込み。これは、韓国映画としては本当に画期的な成績だね。今までで国内で一番動員が良かった韓国映画は何だったかな。『風の丘を越えて/西便制』ぐらいしか浮かばないし、昨年評判をとった『八月のクリスマス』にしても、シネマスクエアとうきゅうの単館公開で、都内2万人の動員にすぎないんだからね。

 韓国映画といえば、香港映画ほど“オシャレ度”もなく、中国映画ほど“歴史性”も感じさせず、台湾映画ほど“洗練”されてもいない。何か日本映画の陰画のような存在で、その“じめじめ度”や“暗さ”は際立っていたんだね。それが、『シュリ』でその“価値観”が逆転したんだ。
 エンターテインメント作品として、アジア映画の突出点に位置したのが 『シュリ』と言っていい。娯楽性と社会性のミクスチュア。日本の山本薩夫監督とはまた別の意味で、そのミクスチュアを果たしたのが、『シュリ』の監督だよ。ハリウッドスタイルの模倣とかそんなの関係ないね。ある表現が、自ずと何かに似てしまうのは仕方ないのであって、要はその“発展的な形”が重要なんだよ。『シュリ』には、その“発展性”に対する何らかの志があったんだ。
 日本の若い連中に、その志はしっかりと伝わったね。韓国映画云々で、彼らは『シュリ』を観ているんじゃない。面白い映画という、実にわかりやすい基準の中で、『シュリ』が選択されているにすぎない。韓国映画は、その後からついてくる付属物と言ってもいいんじゃないかな。

 おそらく、『鉄道員/ぽっぽや』は日本映画そのものとして、韓国で受け入れられたんじゃないかと思う。面白い映画、何となく気になる映画というより、日本映画という点こそが観る観ないの価値基準になっていた気がするんだな。
 だから勝負は、国籍を意識させるかさせないかで決まったと思う。問題はじゃあ、第2、第3の『シュリ』が韓国から出てくるかどうかなんだが、これはそう簡単にはいかないんじゃないかな。アジア映画というか、非アメリカ映画のすべてにそれは言えることで、それについてはまた次回にでも触れることにしよう。(3月30日)

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【参考】 いま、韓国エンターテインメントが熱い!
        ◎アジアン・ウェーブ 《韓流熱風》特集
        ◎パワー・アップする韓国映画たち
        ◎韓国ドラマ・俳優特集
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