4月末に、日本映画の論考をまとめた『日本映画 逆転のシナリオ』(WAVE出版)を出しました。キネマ旬報で連載していた『映画戦線異状なし』の文章を中心にしたものです。まずまずの売れゆきのようです。
映画の本は、なかなか売れゆきにつながらないと言われます。何故かというと、つまらないからです。それと、映画ファンは最近ではあまり映画評論の類を読みません。映画は、雑誌やインターネットの単なる情報でこと足ります。その先の映画評論や映画についての突っ込んだ&カ章を、あまり必要としていないのです。
こんな状況なので、映画の本はぱっとしません。しかし、本屋に行けばわかるとおり、結構映画の本は出ています。売れないのに何故と言われる方には、タイトルをよく見て下さいと逆に言いたい。黒澤明や淀川長治、往年のスター関連といった本が多いはずです。これらは、部数は少ないながら、何とか出版の帳尻が合います。あとは、映画史や監督の研究本、こんなものはハナから売れゆきは気にしてません。出すことが、目的なのです。
でも、そうは言ってもそれらは間違いなく映画の本です。だから、こう言い替えましょう。個人や映画史的なバリューを考慮した映画の本はたくさん出るけれども、映画評論家たちが本腰を入れた映画評論的な本は、非常に出にくくなっていると。後者は出たとしても、採算度外視なのだと。
こういう中で、『日本映画 逆転のシナリオ』は出版されました。出版元のWAVE出版は、経済本や企画ものが多く、映画の本でも採算度外視なんてありません。では、バリューの低い著者による(ケンソンですが)、映画の評論≠ェ何故出たのか――。面白いからです。ここ、(笑)を入れません。本心だからです。
でも、それだけでは映画の本は売れません。クオリティの高い映画が、必ずしもヒットに結びつかないのと同じです。だから、本が出たあとも、徹底的に働かされます。パブリシティというやつで、本作りよりこっちの方が大変なくらいです。少しオーバーですが。
キツイのは、記事が出てないとすぐに電話がかかってくることかな。あの新聞はどうなった、あの週刊誌はいつ出るのか云々。他の映画の本も、そうなのかな。
しかし、これは鍛えられますよ。自分の本が、マスコミにはどういう記事になっていくのか。映画監督が映画を作れば、当然様々な評価にさらされます。本ももちろん同じことが言えます。
映画の本は、映画でいうと全国公開型ではなくて、単館系に近いですね。だから、大々的な広告宣伝ができない代りに、パブリシティが重要になってくるわけ。それで、目いっぱい編集者にけしかけられ、インタビューを受けさせられます。
『日本映画 逆転のシナリオ』は、オビのコピーに、みんな〜儲かってるか≠ニ出ています。もちろん、北野武監督の『みんな〜やってるか!』からとられたんですが、そのニュアンスはなかなか伝わらないでしょう。映画の経済原則をめぐって、この本の文章は書かれています。それをちょっと、ヒネってみたいという思惑もあったわけです。経済原則を大きく打ち出してみたいという思いとともに、それをまた相対化させる。言ってみれば、この本のへそ≠ンたいなものですね。
次回は、映画の本の批評をやってみましょう。もちろん、目についたものぐらいで、全部を網羅するなんてことはできませんが、みなさんのご意見も聞いてみたいですね。(6月15日)
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